看護師がリウマチになるということ|看護する側から患者として向き合う日々
20年以上、私は透析看護師として「看護する側」に立ってきました。
そんな私が、ある日「患者」になりました。
関節リウマチ。
医療者としての知識は、自分の身に起きた変化を、容赦なく見せてきます。
それでも、私は看護師として働き続けることを選びました。
その選択を支えてくれた、たくさんの温かさを、ここに残します。
はじまりは、指先のささやかな違和感から
最初は、指先のささやかな違和感でした。
「使いすぎかな」と、軽く受け止めていた日々。
けれど痛みは引かず、検査を受けて、関節リウマチと診断されました。
看護師の知識があるからこそ、頭の中には「これからの病気の進行」がはっきり見えてしまいます。
それは、安心でもあり、同時に重さでもありました。
勤務先の医師が、私の働き方を許してくれた
仕事を続けるか、続けないか。
最初に大きく揺れたのは、その選択でした。
そんなとき、私を支えてくれたのは、勤務先の透析クリニックの医師でした。
「両手にバンテリンサポーターをつけて勤務してもいいですか」
正直に相談すると、許可してくださいました。
そして、トラムセット(鎮痛剤)の処方もしていただいて、痛みのコントロールができる体制が整ったのです。
「リウマチを抱えていても、私は働ける」
そう思える環境を、職場の医師が作ってくださった。
医療現場で働く看護師にとって、職場の医師の理解は、本当に大きな分かれ道です。
私はその分かれ道で、確かに前を向くことができました。
サポーターから始まった、患者さんとの会話
両手にサポーターをつけて勤務する日々。
不思議なことに、患者さんのほうから声をかけてくださることが増えました。
通院されている方の半数以上が、私のサポーターに気づいて、こう言ってくださったんです。
「あら、ゆるらさんも痛いの?」 「無理しないでね」
労いの言葉が、毎日のように降ってくる。
そして、もっと心に残ったのは、患者さん自身も同じ部位の痛みを抱えていらっしゃったことでした。
「私もCM関節症でね」と打ち明けてくれた日々
「私もCM関節症でね、痛むのよ」
そう打ち明けてくださる女性患者さんが、想像していた以上にたくさんいらっしゃいました。
(CM関節症とは、親指の付け根の関節に起こる関節症のこと。リウマチでない方にも起こる、身近な痛みです)
サポーターをつけて働く看護師の姿が、患者さんの心の鍵を、そっと開けてくれたのかもしれません。
「ずっと我慢してたんだけどね」 「誰にも言えなかったの」
そんな言葉に耳を傾けながら、私は「自分が痛みを知っているからこそ、できることがある」と気づきました。
痛みを知っている看護師だから、提案できたこと
患者さんの痛みの相談を受けて、私が伝えられたのは、こんなことでした。
■ サポーターのご紹介
私が実際に使っているバンテリンサポーターのこと、装着の感覚、効果のリアル。
体験者として、生きた言葉でお伝えできました。
■ 温罨法の提案
温めることで楽になる仕組みを、自分の毎日と重ねながら説明しました。
■ 補助具のご案内
「だるまさんオープナー」のように、ペットボトルや瓶のフタを開けるのを助ける道具を、患者さんに提案できました。
「自分が痛みを知っているからこそ」できる看護ケアは、確かにそこにありました。
「夫の靴下の着脱が辛いの」
ある女性患者さんとの会話を、私は今も忘れません。
その方は、ご自身もCM関節症で痛みを抱えていらっしゃるのに、ご主人の介護をされていました。
「夫の病状のほうが重いから、私の痛みは後回しなの」
そう言いながら、ぽつりぽつりと続けてくださいました。
「夫の靴下の着脱が辛くて。でもね、自分のバンテリンサポーターを外すのも、痛いのよ」
私は、ただ頷いていました。
何かを言葉にすることが、かえって場を遠くしてしまう気がしたんです。
頷くしかできない瞬間が、実は一番大切な看護なのかもしれない。
そんなことを、患者さんから教えていただきました。
患者さんとの距離が、ぐっと近くなった瞬間です。
何度も「鍼灸」を勧めてくれた、ある男性患者さん
「ゆるらさん、鍼灸を試してみたら? いいよ」
ある男性患者さんは、私のことを心配して、何度もそう勧めてくださいました。
私自身、関節リウマチに鍼灸が効くという確信が持てなくて、毎回丁寧にお断りしました。
不思議なのは、何度断っても、その方との関係性が悪くならなかったことです。
きっと、心の底から心配してくださっていたんだと思います。
「自分の体験を伝えたい」 「少しでも楽になってほしい」
そんな気持ちが、断っても断っても、また向けられる。
その温かさに、私は何度も助けられました。
仲間は、思っていたよりずっと近くにいた
サポーターをつけて働く日々の中で、「私も使ってるよ」と教えてくださる方が、次々に現れました。
■ 内装関係の事業をされている患者さん
「俺もバンテリンサポーター、愛用してるんだよ」
そう笑って話してくださいました。
■ 勤務先のドライバーさん
毎日、両手にサポーターを装着して、しっかり仕事をされていました。
リウマチや慢性の痛みを抱えながら働く仲間は、私が思っていたよりも、ずっと近くにいたのです。
「ひとりじゃない」が、日常の中に確かにあった。
これは、看護する側だった私が、患者になって初めて気づけたことでした。
「あなただけには伝えようと思ったの」
同じ職場で働く看護師仲間に、Cさんという方がいました。
ある日、Cさんがそっと打ち明けてくださったんです。
「実家の母が、関節リウマチなのよ」
リウマチを抱える私のことを気にかけて、家族の話を共有してくださった。
その後、お母さまの体調が悪化されて、Cさんは看取りのために休職されました。
しばらくして、復職された日のことです。
休憩室で、Cさんが私を呼んで、静かに言いました。
「関節リウマチあるある、間質性肺炎だったの」 「あなただけには、伝えようと思ったの」
(間質性肺炎は、関節リウマチの代表的な合併症のひとつです)
その言葉は、警鐘であると同時に、深い思いやりでした。
「あなたは気をつけて、長く生きてね」
Cさんは、そんなふうに、私の未来を案じてくれていたのだと思います。
同じ職場の同僚として。 リウマチを身近に持つ家族の経験者として。
Cさんが私に向けてくださった真心の温かさを、私はずっと忘れません。
リウマチを抱えながら看護師として働くあなたへ
もし今、リウマチや慢性の痛みを抱えながら、看護師として働き続けるか悩んでいる方がいたら。
私の経験から、お伝えしたいことがいくつかあります。
■ 職場の医師に、正直に相談してみる
サポーターを着けたい、特定の動作が辛い、鎮痛剤を相談したい。
正直に伝えることで、思ってもみなかった道が開けることがあります。
■ サポーターや補助具を、ためらわず使う
「医療者なのに頼っていいのか」と思う必要はありません。
自分の体を守ることは、患者さんを守ることに繋がります。
■ 患者さんとの絆は、痛みからも生まれる
サポーターをつけた姿が、患者さんの心の鍵を開けることがあります。
弱さを見せることが、看護師としての強さになる瞬間が、確かにあります。
■ 仲間は、思った以上に近くにいる
同じ職場の同僚、通院されている患者さん、街で働くいろいろな方。
リウマチや慢性の痛みを抱えながら頑張っている仲間は、本当にたくさんいます。
「ひとりじゃない」と気づける瞬間を、どうか大切にしてください。
まとめ|患者になって、見えてきた景色
関節リウマチになって、私は「看護する側」と「患者」の両方の立場で、医療現場に立つようになりました。
その経験は、痛みも辛さも伴います。
それでも、たくさんの温かさを教えてくれました。
職場の医師の理解。 患者さんとの絆。 同僚の真心。 ともに痛みを抱える仲間の存在。
そのどれもが、リウマチにならなければ気づけなかったことばかりです。
「看護する側」として、患者さんの気持ちに本当に寄り添えるようになったのは、自分が患者になってからかもしれません。
これからリウマチと向き合う方へ。 看護師として働き続けようとしている方へ。
私の体験が、ほんの少しでも背中を押せたら、それ以上に嬉しいことはありません。
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